PARTYのミッションは「未来の体験を社会にインストールする」こと。その中で、私たちは最新のテクノロジーとナラティブを融合させた「空間体験」のコンセプトメイキング・デザイン・実装までを一気通貫で行っています。前回のPARTY INVITESでもお知らせしたように、PARTYは執行役員としてART+TECH プロデューサーの杉山央氏を迎え、今後さらに「空間体験」に関わるプロジェクトにも注力していきます。
今回のPARTY INVITESでは、今、なぜ「空間体験」のデザインに力を入れているのか、PARTYが考えるその可能性について、空間体験チームのメンバーへのインタビューを通じて迫っていきます。
建築ファーストではない「空間体験」をつくる
— まず最初に「空間体験チーム」を発足させるに至った理由を教えてもらえますか?
PARTYは設立以来、最新テクノロジーを活用したプロジェクトに関わる機会が多いのですが、一つの大きな転換点になったのが「成田国際空港第3ターミナル」のプロジェクトでした。
3年以上かけて取り組んだこのプロジェクトは、クライアントと計画段階のフェーズから一緒になってアイデアを練ることができたので、非常に良い形でアウトプットまで並走しながら、結果として多くのメディアに取り上げられ、いくつかの素晴らしい賞をいただくことができました。
このプロジェクトをきっかけに「PARTYに空間をデザインして欲しい」という多くの相談をいただき、その後も日本科学未来館のリニューアル・プロジェクトや、UZABASE様のオフィスデザインなどのお仕事を通じて様々な「空間体験」を考え、実際につくり上げてきました。その経験やノウハウを活かすため、PARTYの一つの事業の柱として「空間体験」チームを発足させることになりました。
—なるほど。「空間」をデザインする上で、PARTYならではの強みはどこになるのでしょうか?
PARTYの一つの大きな考え方は、私たちは「空間デザイン」ではなく、「空間体験」をつくる集団だ、というものです。
言い換えると、既存の「空間デザイン」は建築やインテリアにおける意匠としてのデザインを行うものですが、私たちにとっては「そもそも、その空間でどんな体験をしてもらいたいのか?」というアイデアが、空間をつくる上で最も大きな優先順位になります。
そのアイデアを実現するために、どういった空間が必要で、どんなデザインをするのか?が決まってくるんです。
小野崎:
その考え方は、私たちの仕事への関わり方にも大きく関係してきます。
例えば、成田空港のプロジェクトは構想・基本計画の段階から「この空間でどんな体験を提供したいのか?」を考えることができたのが、最も大きな成功要因でした。建築や空間ができたあとに体験を考えはじめると、どうしても建築上の多くの制約が生まれてしまい、実現できる体験の幅がかなり狭くなってしまいます。
言葉を選ばずに言うと、世界を驚かせるような建築や空間を生み出すために、私たちは既存の「建築ファースト」の考え方を変えていきたい。これからは「体験ファースト」の考え方が必要だ、と本気で思っています。
PARTYには、 これまで様々な建築家、設計事務所、大手ゼネコン、内装会社と仕事をしてきた豊富な経験値があります。それに加えて、社内に企画・空間設計・映像制作、さらに最新テクノロジーを含む実装までを可能にできる、様々なプロフェッショナルがワンチームで揃っているのは、他のどこにも無い強みだと思います。
建築が関わるプロジェクトをスタートさせるには、規模を問わず、事前に関係各所への承認が必要です。当然、大きなビジネスになるので、何より先に承認を得る必要があり、そのプロセスがテンプレート化されてしまっているのが現状です。計画段階からコンテンツに着手したいのはもちろんですが、そうなっていない理由はその辺りにあると思います。
なので、プロジェクトの承認段階で、組織系設計事務所、アトリエ系設計事務所に加えて、PARTYのような「体験設計事務所」を加える流れができれば、色々なことが突破できるのではないでしょうか。
「見立て」を活用して、未来の「空間体験」をつくる
— では、PARTYならではの「空間体験」は、どんな形でつくられていくのでしょう?
林:
PARTYが空間体験をつくる上で大切にしているのは「見立て」です。
「未来の体験」をつくるためには、最新テクノロジーを活用することが多くなります。ですが、体験する人が今までの知識や体験をベースに「ああ、こうやればいいのか」という判断を瞬時にできないと、それは良い体験だとは言えないのでは?と思うんです。
それを解決するための一つの解が、「見立て」や「擬態」というキーワードにあります。
PARTYが大切にしている考え方に「アフォーダンス理論」があるのですが、これは、一言で言うと「物や空間自体が、人間の行動を引き出すような特性を持つ」状態を言います。例えばドアノブが引き手になっていれば、人間はノブを引けばドアが開くことを認識できる、そんな空間と人間の自然な関係が理想です。
今まで体験したことのないものを、今まで見たことのあるものに見立て、擬態させる。そうすることで、人間は無意識のうちに「未来の体験」を受け取れるようになります。
UZABASE様のオフィスデザインのプロジェクトでは、オフィス内で最新の経済情報に自然な形で触れられるようにするために、巨大なLEDサイネージをダクトに擬態させました。
最近手がけたハラカドの「太陽の焚き火」でも、「原宿のど真ん中で、焚き火を囲むようなゆっくりとした時間を過ごしてもらう」という体験アイデアを実現しました。
— なるほど、それは人間にとって根源的で、普遍的な「原体験」ですね。その体験を再現するのは非常に難しそうですが…。
はい。そこで「焚き火を囲むように、ゆっくりとした時間を過ごす」という、今回のコアとなる空間体験が決まると、次にArt Directorである私の方でビジュアルでの検証を進めていきました。
このフェーズで大切なのは、社内のチームはもちろん、クライアントを含む関係者の間で共有できるゴールイメージや共通言語をつくり出すこと。それを実現するために、このビジュアルの力は非常に大きかったと思います。
さらにここから、「太陽」や「焚き火」というキーワードから体験する人に何を持ち帰ってもらうのか?という議論を深めていきました。
原宿は日本の中でもインバウンド需要が大きい場所なので、言語・文化・年齢の壁を超えて、世界中のあらゆる人が共通の体験を享受できるようにする必要があります。
もちろん、太陽や火をそのまま再現することは不可能です。なので「巨大な太陽に直面した時に、思わず上を見上げてしまう体験」だったり、「焚き火が生み出す”1/fゆらぎ”によって、時間を忘れるほど見入ってしまう体験」のように「見立て」の解像度を上げることで、どんな体験を、どうやって再現するのか?という実装に向けた議論をはじめることが可能になります。
デジタルテクノロジーに関するプロジェクトが多いPARTYでは、アプリやWebサイトといったオンスクリーンのアウトプットが多いので「スマホなどの端末の中で、ユーザーにどう行動してもらうか?」を考え、デザインするのが主な仕事になります。
ですが、デザインする対象=空間の中に体験者が取り込まれている空間体験デザインの面白さは「身体全体で、五感のすべてを使った体験」をつくり出せるところにあります。
人間の身体は、優れたセンサーの塊です。
原っぱを歩くとき、太陽を見るとき、みんなで焚き火を囲むとき、人間はどんな感覚になるのか?人体に備わったセンサーには、どんなフィードバックが起きているのか?
体験するのは人間なので、自分たちが理解できないものを作るのは不可能です。なので、私たちは、人間の本能を刺激するようなプリミティブな感覚を最も大切にしています。誰もが持っている記憶の中の感覚を呼び起こすことができれば、体験の強度が上がります。
だからこそ、アイデアを実装するときにはテクノロジーを出来るだけ見せずに「擬態」させることが重要です。今回も乗り越えるべきハードルがいくつもあったのですが、その中でも特に難しかったのは「球体の素材と照明の動きだけで、どうやって自然な焚き火の動きに擬態させるか?」というもの。
最終的にチーム全員で議論しながら検証を繰り返し、光を通しながらもオーガニックな質感を残す和紙の素材と、点ではなく「面」で発光する照明を発見したのがブレイクスルーになり、太陽のメラメラ感を感じさせるようなモアレをあえて発生させることで、自然の火に近い状態をつくり出すことができました。
今後の展望について
— それでは、今後の展望について教えてもらえますか?
根之木:
尊敬するクリエイターにシド・ミードという人がいるのですが、彼は自ら「ビジュアル・フューチャリスト」と名乗り、独創的で力強いビジョン/ビジュアルの力で、人々に文字通り「未来」を想像させてきました。
PARTYの空間体験チームは、コンセプトアートから実装までを包括して「世の中の人が想像するよりも、少しだけ未来な体験」をつくり出せる集団です。なので、自分たちの想像力にリミッターをかけることなく、シドのようにより良い未来を指し示していけるような仕事をしていきたいと思っています。
日下部 :
「空間体験」をつくる上で面白いと感じているのは、オープンして皆さんに体験してもらってからが本当の勝負、というところ。デザインした体験がずっと継続しながらも、さらにどんどん変化していくような仕事が、個人的には理想かもしれません。
以前、私が住んでいたロンドンと比較すると、日本の都市開発はスクラップ&ビルドの文化が根強く、社会への配慮や接続が弱い気がしています。社会にとって良い変化を生み出すためには、もっと自由や余白を残すことが大切かもしれない。
5年後に、良い意味で私たちが意図していない変化が、次々に生まれてくるようなプロジェクトをやってみたいですね。
林:
「空間体験」をつくるプロジェクトは、PARTYが創設以来積み上げてきたノウハウの集大成で出来ている、と思います。
ユーザー・エクスペリエンスの設計、最新テクノロジーの社会実装、スタートアップ的なサービス設計&事業デザイン、そして、空間と体験を活用したブランディング。
PARTYの過去の実績や経験を組み合わせながら、今まで誰も経験したことのない未来の体験をつくるのが「空間体験デザイン」であり、これからの社会に必要な取り組みだと心から思いますし、世の中的にもさらに大きく発展していく領域なのではないでしょうか。
小野崎:
最近では、体験型ミュージアム、都市部の再開発ビルでの新しい仕掛け、未来の店舗、海外でのパビリオンや展覧会など、さまざまな空間体験プロジェクトが動いています。 国内外問わず、もっとたくさんの新しいプロジェクトをつくりたいです。
また、建築プランは決まっているけど体験・コンテンツが決まってない、という案件もあります。 どちらの対応も可能ですので気軽にご相談ください。
一緒に世界をもっと楽しく、美しくしましょう!
大地を照らし、緑を育み、私たちの暮らしのためにエネルギーを生み出してくれる「太陽」を表現した本作品。焚き火をするように囲んで座ることで、太陽のありがたみを身近に感じさせてくれます。そしてやさしく温かい光が、原っぱに寝そべり、太陽の光を浴びていた頃の思い出までも呼び覚ましてくれます。
太陽の内部に設置した14台、合計約7万ルーメンのムービングライトを動かすことで、焚き火の揺らめきや太陽の壮大さを演出しました。
米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA) 2024」にて、114の国や地域から集まった4,936点の応募から約270のノミネート作品が上映されました。初日にLINE CUBE SHIBUYAで行われたオープニングセレモニーにて、PARTYが企画・制作に携わった作品「フューチャー!フューチャー!」がAmic Sign(アミック・サイン)アワードを受賞しました。
眞鍋海里(脚本・総監督)コメント
この度は、このような輝かしい賞を頂き誠に光栄に思います。本作は『今を生きる私たちは、なぜ明るい未来を想像できていないのだろうか?』そんな問いから生まれました。AIやロボットが台頭する時代に、人間は何ができるのか? 想像や妄想は時に"机上の空論"と揶揄されます。しかし、SFの父、ジュール・ベルヌの言葉「人間が想像できることは、必ず人間が実現できる」にあるように、"想像力"とは人間に与えられた未来へのタイムマシーンとも言えます。この作品は、観終えた後にちょっとでも前向きな妄想が膨らむ、誰もが楽しめるエンターテイメント作品を目指して制作されました。これを機に、より多くの方に観ていただける作品に成長することを制作陣一同、願っています。
今回のPARTY INVITESはいかがでしたか?
今後も「空間体験」デザインに関わる事業を拡大しながら、未来の体験を創りだすことに邁進していくPARTYに、ぜひご期待ください。